意味怖

意味怖2016夏の特別編「彼女の心臓」

投稿日:2016-06-10 更新日:

「何それ。返事もしてないってこと?」

綾子の部屋に、私の大きな声が響いた。

申し訳なさそうに、綾子は頷く。

「なんでよー。あんな物件そうそう居ないよ。高収入だし、真面目そうだし、顔も悪く無いし」

私が指を折るのに合わせて、また綾子は首を縦に振った。

「だいたい綾子の好きなガッチリ系のスポーツマンじゃない」

「……そう、なんだよね」

「一体、何が不満なのよ。正直、私が付き合いたいくらいだよ」

「もお、何言ってるのよ。そっちは順調なんでしょ?……」

少し間を開けてから、綾子は言葉を続けた。

「……池松君とさ」

そう口にした綾子の瞳は、少し憂いを帯びて見えた。

 

カチッ、

女の勘がフラグを立てる。

何?今の間は?

それに、この表情は?

……いやいや、

そんなことはあるはずがない。

私達は中学からの親友同士。

そもそも、優男(やさおとこ)の時生(ときお)は、綾子のタイプじゃ全然ない。

綾子の恋愛遍歴なら、初恋から10年間。

私が世界一に熟知している。

 

「えっと、まあまあ上手くいってるかなあ」

私が曖昧にそう答えると、綾子は何度も小さく頷いた。

私は視線をテーブルに落とす。

綾子の皿には、まだチョコレートケーキが半分残っている。

「変わったよね。綾子」

「えっ」

大きな瞳が、より一層大きく見開く。

「前は私の分まで奪って食べようとしてたのに」

「あー、ケーキ。そうなの。最近、あんまり甘い物食べれなくなっちゃって」

そう言うと、綾子はマグカップを口元に運んだ。

カップの中身はブラックのコーヒー。

昔は飲めなかった。

『苦いだけだし。飲める人のがおかしいよ』

そう言って、なぜか私が非難された過去を思い出す。

 

「手術のせいなの?」

私が聞くと、

「…多分。そうかもしれない」

自身の胸に手を当てて、綾子はそう答えた。

 

綾子が心臓の移植手術を受けてから、もう1年が経つ。

術後、復調した綾子に多少の違和感を覚えてはいた。

大きな手術を受けた後に体質が変わってしまうというのは、何も珍しい話ではない。

しかし、移植手術の場合、その確率は格段に高くなるそうだ。

 

「きっと前の持ち主の好みが、私に移ったんだろうね」

顔を上げた綾子の笑顔は昔と何も変わらなかった。

 

しかし、それでも私は、

自分の中で広がっていく疑念の靄(もや)を、

抑えるつけることができないでいた。

 

解説

この話の解説が気になる方は、スマホアプリでご覧になれます。

5話収録の短編集です。

全話、私が書いたオリジナルです。

なので、面白いかどうかは別にして「知ってる話ばっかりだ」ということは無い筈です。

暇つぶしにご使用ください。

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