意味怖

スイカ

投稿日:2019-08-17 更新日:

目覚ましを止めてから、

私はタオルケットを身体に手繰り寄せた。

付けっ放しにしているクーラーのせいで、ーーいや、「おかげで」が正しいのだけれど、ーー部屋は少し肌寒い。

首を逆側にひねり薄目で見る。

クイーンサイズのベットは今朝も私が独占していた。

ふう、と口から息を吐き、身体を起こす。

出窓のカーテンを開けると、差し込む光に一瞬視界が白くなった。

 

ローンで建てた夢のマイホーム。

2階にある寝室からは、猫の額ほどの小さな庭が一望できる。

目をこらすまでもなく、

案の定、亮太の姿はそこにあった。

 

私の言いつけを守って日射病対策の幼稚園の帽子を被り、

象の姿を模したピンク色のポリエチレンのジョウロを庭に向けて傾けている。

お盆に私の実家ーーおじいちゃんの家に帰省した際、亮太は裏のスイカ畑を見せてもらった。

その影響だ。

 

田舎から家に帰るなり、亮太は着替えもせずに庭に出て水を撒き、

それは彼の毎朝の日課になった。

それまで朝は苦手で、グズってなかなか起きてくれなかったのに、大した変わりようだ。

それは親としてはとても助かる、んだけれども……。

 

 

実家では、兄の奥さんの加代さんが採れたてのスイカを切ってくれた。

「美味しいでしょう?水をたくさんあげて、土の中で丸々と元気に育ったのよー。遠慮しないで、りょうちゃんいっぱい食べてきなね」

そんな言葉を聞くと、亮太は目を輝かせていた。

おいしい、おいしいと繰り返し、珍しく自分から、「畑を見てみたい」なんて自己主張までして、興奮した様子だった。

夕食どきは親戚が一同に集まり、食卓にはスイカを始め、畑で採れた新鮮な野菜が並んだ。

さも当たり前という顔で恵まれた環境を享受する従兄弟の健人くんのことを、亮太は羨ましく思ったことだろう。

それはそうだ。

ボクもほしいな、

そう考えても何もおかしくはない。

 

 

空になったジョウロを傍に置くと、亮太は膝を屈めた。

ここからでは丸まった小さな背中しか見えないが、水を吸って濡れた土を見つめているのだと思う。

 

当然、土の表面に変化は見られないはずだ。

芽など出ているはずがない。

そんなことはここからでも分かる。

庭の土は固くないし、ちゃんと耕して肥料でも撒けば、もしかしたら何か育つのかもしれない。

でも、それは仮定の話だ。

「もしも」何か植物を植えていたらの話だ。

その庭には、種や苗は埋まっていない。

ただ水を遣っているだけじゃ、何も起きないんだ。

残念だけどね、

無意味なんだ、

亮太の思っているようなことはね、

起こらないんだよ。

 

……はあ、

ため息を漏らし、私は首を横に振った。

そんな事、幼いあの子に言えるはずがない。

 

『おはよう、お父さん』

 

いつのまにか、こちらに気付いた亮太が2階の私に笑顔を向けていた。

窓は閉めたままだったが、口の動きは読める。

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