意味怖

霊能者の義務

投稿日:

信号待ちをしていたのは5人。

私は、前に立つ灰色のスーツの『背』をじっと見つめていた。

大学の授業に遅れる。

どうしようかと、迷った。

しかし、これは『義務』みたいなものだ。

信号が青に変わり男性が歩き出そうとしたタイミングで、私は彼に声を掛けた。

 

「すみません」

「……はい、なんですか?」

足を止め、振り向いた顔はどこか疲れて見えた。

お父さんくらいの年齢かな。

「あの、いきなり失礼かとは思うのですが、えっと……あなたに、その……貧乏神が取り憑いています」

しばらく間があり、それから私の言葉を理解すると、男性は眉をひそめ訝しげな視線をこちらに向けた。

胃がキリリと痛む。

でも、我慢できる。

慣れ親しんだ視線、こうなることは覚悟していた。

昔から何度も経験している。

お母さんも、お父さんも、級友も、先生も、私が『こういうこと』を口にすると、途端にみんな同じ視線を私に向ける。

他人とは違うモノが見えることを疎んじたこともある。

というか、

今でもそう思うことの方が多い。

……それでも『視えてしまう』以上は、困っている人を放っては置けないもの。

男性が向けた懐疑の視線を外し、私は彼の『うしろ』を見る。

どんなに罰当たりな人間だって、背後に守護霊が一人も憑いていないなんてことはあり得ない。

しかし、貧乏神が取り憑いている場合は、別だ。貧乏神の醸す瘴気を嫌い、他の霊は離れていってしまう。

「何かお金に関する『トラブル』だったり、それに類されるような問題を抱えていたりはしませんか?」

男の視線はハエを追うように宙空をさまよい、しばらく経つと、また私の目に戻った。

「……あります。と言いますか最近、トラブルだらけで……。仕事では、大口の顧客から相次いで契約を切られてしまったし。プライベートだと、母親が振り込み詐欺に合ったし、息子の通わせている学習塾が潰れてしまったりね。既に一年分の授業料を納めてたんですよ……。ほとほと運に見放されてしまった感があります……しかし、その、本当にそんなーー貧乏神なんてものが?」

はい、コクリとうなずくと、私は自身の目に映る様をそのまま彼に伝えた。

「おぶるような形でしっかりと、あなたの身体にしがみついています。私の経験からの推測ですが……おそらく、あなたに対してなんだかの悪意を持つ人間が人為的に呼び寄せた『呪い』の一種だと思います」

私の言葉に、男性は顎を引いてうつむいた。

何か心当たりがあるのだろう。

 

「……そう、ですか、」

彼は暗い声でそう返した。

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