「ねえ。あの人、見えてる?」
僕の膝を指先で叩くと、先輩はそう呟いた。
隣を見ると先輩はとても青ざめた顔をしていて、その視線は対面のシートに座るスーツ姿の男性に向いていた。
ーーーK電鉄K線のU駅行き。
電車はN駅を後にし、次は終点のU駅だった。
「……はい。見えてますけど」
男性は多少うつろな眠そうな目をしていたが、普通の人間のように見えた。
『半透明』でもないし、『足が無い』ということもない。
「そう、そっか…」
しかし、先輩には違って見えているのだろう。
僕は、彼女が何か特殊な霊能力のようなものを持っていることを知っていた。
以前にも似たようなことがあったからだ。
去年の話だ。
***
僕たちは大学の食堂に居た。
ゼミの数人で少し遅いランチだった。
ミートソースのスパゲティを完食し口を拭うと、前に座っている先輩のカレーがあまり減っていないことに気付いた。
僕が視線を上げると、先輩はスプーンを持ったまま青ざめた顔をして固まっていた。
「どうしたんですか?」
「……三津谷くん、向こうのテーブルって何人座ってる?」
スプーンが指す先を確認すると、僕は間延びした声で答えた。
「えーっと、5人ですよね。どうかしました?」
「…ううん。なんでもない」
その日の晩、風呂上がりの僕に母親が声を掛けた。
「あんたの大学の生徒さんが亡くなったみたいよ。なんか知ってる?」
テレビの画面に写っていたのは、食堂で見た5人のうちのひとりだった。
神妙な顔をしたニュースキャスターはこう言った。
「自室の浴槽で見つかったYさんは死後1週間は経過しているとのことで…」
信じられなかったが認めざるを得なかった。
僕があのとき食堂で目にした彼女は、
幽霊だったのだ。
続きはLINEで
ネットのコピーではない『オリジナルの意味怖』をLINEに掲載しています。
無料です。
追加/削除もご自由にして頂いて大丈夫です。