意味怖

最後の一葉

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あの日の私は絶望していた。

重い病気にかかっていたのだ。

医者や家族は私が気落ちしないように、言葉をにごしてはいたが、今のご時世インターネットで調べれば何でもすぐにわかってしまう。

私がかかった病気は不治の病で、生存期間の平均は8ヶ月だった。

 

「もう私は入院して半年だ。残された時間はあとわずかだよ」

口から出てくるのは、後ろ向きな言葉ばかり。

わざわざ見舞いに来てくれた旧友たちも、暗い面持ちで帰って行った。

ベットから立ち上がる気力も湧かず、私は病室の窓から外をながめ、彼らを見送った。

 

赤い夕陽が射していた。

中庭の大木が見える。

ケヤキは、青々と葉を生い茂らせている。

しかし、その葉も来月には夕陽のように赤くなり、やがて散る。

「あのケヤキの葉が一つ残らず落ちた頃には、自分の命も尽きてしまうだろう」

独り言だったのだが、

「……そんなことはないですよ」

意に反して返事があった。

 

老齢の男性だった。

白髪に白い髭をたくわえ上等そうなスーツを着ている。

いつの間にかベッドの横に立ち、窓の外を眺めていた。

「どういうことです?」

「すみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが……」

「いえ。それは良いのですが、何が『そんなことはない』のでしょうか?」

「最近の技術の進歩というものはすごい速度です。日々、これまでの常識が書き換えられてしまう。現場に居る人間からするとそら恐ろしいと感じる程です」

「それで……?」

「私の研究室でも人工知能が24時間休みなく遺伝子の構造解析をおこなっています。彼らは休みも必要なく、弱音も吐かない。何より探究心が旺盛です」

高揚した。

私は間違えていたのかもしれない。

考えてみればインターネットに載っている情報なんて、だれが書いたか定かじゃないし、何年前の常識に基づいて書かれたものかも分からない。

そうだ、医学は進歩しているのだ。

「先生はこの病院の?」

「いえ、学生時代の友人がこちらの院長なんです。たまたま近くで学会があったものですから顔を見ようと寄ったのです」

その時、看護婦が男性に声を掛けた。

「あ、大門先生。こちらにいらっしゃったのですか。院長がお探しなのですが…」

大門先生は腕時計を見ると、

「おっと、もうこんな時間か」とつぶやき、それから私の目を見据えて言った。

「ともかく、保証しますよ。あなたが言っていたような事には私がさせませんから」

涙が出そうだった。

「ありがとうございます」

私が手を差し出すと、先生はその手を強く握り返した。

先生の手はとても大きく、あたたかかった。

 

***

 

季節は冬になり、

今年何度目かの雪が降っている。

 

先生の言葉は本当だった。

彼の処置を受け健康体を保ったままの姿を見ると、見舞いに来た誰もが驚きを口にした。

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