22時頃だった。
玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう?
いぶかしげに魚眼レンズを覗き込むと、友人の姿があった。
「こんな時間にゴメンね」
祥子とは学生時代からの付き合いだが、私の家に来るのは久しぶりだった。
最近婚約した彼と付き合い始めたのが半年くらい前だろうか、それから祥子はあまり昔の友達とつるまなくなった。
彼氏は名家の御曹司らしく、庶民の私たちと距離を置いたのだ。
少し寂しくも感じたが、まあ、仕方がないかとも思っていた。
「どうしたの?何かあった?」
祥子の服はひどく濡れていた。
その日は雨が降っていた。
夜中に傘も差さずに、理由なくフラッと立ち寄るとは考え難い。
部屋に招き入れ、黒い髪を拭くようにタオルを渡す。
コーヒーにミルクを入れて一口すすると、祥子はポツリポツリと話を始めた。
「最近ね。ちょっとタチ悪い男に付きまとわれてて…」
内容はテレビなどでよく聞く、ストーカー被害の話だった。
「頻繁に電話が掛ってきて。その日の私の服装だったり、行った場所についてボソボソと呟くの。いつも監視されてる。それから郵便受けやドアノブに、ヘドロで手形が付いてたこともあったわ」
鳥肌が立った。
「ヤバくない?誰かに相談したの?彼氏には?」
私の問いに、祥子は首を横に振った。
「やっと見つけた玉の輿なんだよ。無理だよ」
案の定そういうことか…
祥子は美人で愛想も良く、中学の頃から男に不自由したことが無い。
今の彼氏と付き合い始めたときにも、既に複数の男が居た。
おそらくストーカーは元カレの内の一人だ。
彼氏の父親は祥子との交際に反対していたと聞いているし、問題を露見させたくない気持ちはわかる。
「犯人に目星は付いてるの?」
「うん」
「知り合い?」
「うん。そうだね」
「前に付き合ってた人?」
「ううん。違うけど…」
友達と恋人の境界線に関して、旧友と議論する気はない。
「警察には?」
私の質問に祥子は無言で首を横に振った。
「そっか。まあ、事件にならなきゃ動いてくれないって言うもんね」
「うん。そうだね。警察は死体が出なきゃ動かないから」
「ちょっと。縁起でもないこと言わないでよ」
「ゴメン。心が弱ってるのかも」
「それで、今日も何かあったってこと?」
私は再び友人の来訪理由に関して質問した。
「それがね…」
そう切り出した彼女の話は、ちょっとしたホラー映画のようだった。
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